思惑
結局、緋乃の腕の中で小夜は、泣き疲れて眠ってしまった。
その様子を見ていた保は、連絡してもいいものか判断がつかないでいる。
「どうしましょうか…………」
「とりあえず、今日はうちの寮の空いてる部屋にでも休ませてあげよう」
「じゃあ、あたしの部屋の隣にしといて。いくら発作が軽かったからって、ほっとく訳にはいかない」
「お世話かけます」
保は、立ち上がり鬼頭と緋乃に頭を下げる。
「別にいいさ。さぁ、お嬢さんを運んでやりな」
「うっす」
保は、小夜を起こさぬようそっと抱き上げると顔を顰めた。
「また、食事抜いてるな」
「確かにその年ごろにしちゃ、小柄だね」
「身長は、中学入学と同時にほとんど止まってますから。俺が言いたいのは、体重です。
元々、誰かが見張ってないとあんまり食べないんすよ」
自分がいない間と家出中の小夜の食事の状態を想像するとかなりやばい。
確実に秀一さん達が切れるのが分かる。帰すにしても、元通りにして帰さないと血の雨が降る。
「社長? しばらくお嬢を預かっちゃまずいですかね?」
保は、恐る恐る現在の自分の上司に許可を求める。
「別にいいよ。それにお嬢さんは、うちにいた方が体にいいだろうしね。
彼女の体が弱いのは、力の循環の悪さだろうしね」
「じゃあ、やっぱりこのお嬢さんは?」
緋乃の問いかけに鬼頭は、頷いた。
「多分、母親がそっちの出だろうね。どっちの一族かは、分からないけど」
「じゃあ…………」
「あぁ、彼女の実家とは私が話をつけておくよ。だから、保は責任持って彼女の世話を頼むね」
「はい!!」
バシッ!
大声で鬼頭に返事をする保の頭を緋乃は思い切り叩く。
「お嬢さんが、起きるだろうが。ほら、行くよ」
小夜が起きる様子がないのを見て緋乃はホッと息をつく。そして、保を連れてその場を後にした。
一人、その場に残った鬼頭は、ニヤリと笑い楽しそうに呟いた。
「彼の宝物を手にすることになるとはね。さぁ、これからが楽しみだ」
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