転校・初日<1>



 バタバタバタッ。
 廊下を駆け抜けていく、数人の足音。それが通り過ぎるのを小夜は身を縮めて待つ。しばらくすると、完全に人の気配がなくなった。
 教室の扉をほんの少し開けて誰もいない事を確認しまた閉じる。

 「やっと巻けた。…………何なのよ。この学校は」

 ホッと息をついた小夜の口からは、どんどんと愚痴が出て来る。でも、それくらい許して欲しい。朝から様々な人間に話しかけられ、追いかけられで心が休まる暇がない。
 いくら昔より体が丈夫になったとは言え、元々体力がない小夜の体はもう悲鳴を上げていた。
 そもそも幼稚園から地元のお嬢様学校でのんびりと過ごしてきた自分に、共学校。それも普通の学校とは言えないここは、正直きつい。

 「…………帰りたい。もう、無理…………」

 そんな小夜の弱気な言葉に呼応するように、制服のブレザーの内ポケットに入れていた携帯が震えだす。取り出して見るとそこには、『百合』と表示されていた。
 彼女は、鬼頭の知り合いのこの学園の生徒だった。この百合という人物は、鬼頭達以上に不思議な人物。
 
 「…………絶対、出ないから。あの嘘つき女…………いや嘘つき男か。もう…………疲れた」

 だんだんと視界が狭くなって、体の力が抜けていく。このままいけば確実に意識が無くなることは分かるけれど、もうどうにでもなれと思った小夜は、そのままにすることにした。
 そしてついにそのまま床に倒れ込んだのだった。
 すると誰もいなかったはずの教室の奥から人影が現れる。その人物は、そのまま小夜に近づくと彼女を抱きあげ教室を後にした。


 「………ちゃん!…………小夜ちゃん、目を開けて!!」
 「おい、病人の枕もとで騒ぐな」
 「うるさいわね!! 大体あんた達が周りの人間を抑えないからいけないんでしょ!!」
 「百合。いい加減にしなよ。僕らだって計りかねてたんだよ」
 「おだまり!! あんた達が邪魔しなきゃ、ずっと私が側で守ったわ」
 「あなた達、いい加減にしなさい。今日はもう彼女は、お家に帰すから。四条さん、荷物を持ってきてあげてちょうだい」
 「…………はい。お前ら、後で覚えてろよ!」

 勢いよく啖呵を切ると百合と呼ばれた少女は、部屋から出て行った。その場に残ったのは、二人の男子生徒と女性教師の三人でそれぞれ溜息をつく。
 男子二人は、百合に、そして教師は、ベッドで眠る転校生に対して。
 
 「それにしてもよく眠っているわね。彼女」
 「朝から追いかけまわされて相当疲れてるからな」
 「本当だよ。こんな事ならさっさとこっちで保護すべきだったよ」
 「お前らに保護されるほうが心配だ」
 「僕達は、彼女を守るよ。君達の方が彼女に対して何をするか分からないじゃないか」
 「そうだな。お前らは、自分達の餌の為には必要不可欠だからな」
 「よく言うよね。彼女達を生贄よろしく僕らに差し出しているのは君達一族だろ?」

 静かにたんたんと言葉を戦わせる二人をよそに教師は、早退手続きを進めて行く。

 「あなた達、もうここはいいわ。教室に戻りなさい」
 「申し訳ないがこれからのことを彼女と話し合わないといけないので」
 「だから、こっちで保護するからご心配なく…………」
 「いいから早く戻りなさい。彼女のお迎えが来る前にね。鬼頭の懐刀と四条さんの怒りを買いたくなければね。さすがに校内で刃傷沙汰は、ごめんだわ」


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