転校・初日<4>
「まず、この学校について簡単に説明するわね。紅が夜叉派、青が鬼克派、そして白が音楽科よ。色で区別出来るから分かりやすいと思うわ」
「わざわざ色分けする理由が分からない。融和を目指すなら一色にまとめなさいよ」
「本当にね。でも最初はきちんと一色にしてたらしいわよ? でも争いが絶えなくてね。勝手に自分達で作っちゃったのよ」
「最悪だわ。で、百合さんは何で白?」
緋乃の友人の子なら紅のはず。それなのに白とはどういったことだろう。小夜の疑問を悟ったのか百合は笑いながら言った。
「私は、元々母親が白なの。多少、力はあるけど体質的には人間。だから、生気を取る必要もなかった。逆に生み出す力があって驚きよ」
「そうなの。あぁ、だからなのね」
夜叉派が向けた百合への視線の理由が分かった。つまり自分達と同じ血を引いていても彼らからすれば餌である人間と同じ。故に自分達と
同列に置くのは我慢がならないということか。
「傲慢なのね。ますます、気に入らないわ」
「傲慢なのは、鬼克も一緒よ。彼らからすれば夜叉に媚を売ってのし上がるきたない奴ららしいわ」
「ふぅん。でも白が居なければ普通の人が危険だってことも分からないのかしら。夜叉の存在を知ったばかりの私でも察しがつくのに」
「いや、小夜ちゃんが特殊な気がするんだけど」
「現実に存在するんだもの、受け入れるしかないでしょ? これが現実なんだって。それに力の有無はあったとしても人間関係の複雑さはどちらも同じ。
だったらそれに対応していくまでよ」
「カッコイイ、惚れちゃいそう」
「女同士で恋愛する気はないわ」
「分かってるわよ。じゃあ、教室に案内するわね」
百合に案内された教室には、たくさんの生徒がいた。彼らは見知らぬ少女を見て首をかしげたり小声で話したりとせわしない。
「はいはい、そんなに見ないの。彼女は、転校生の高塚 小夜ちゃんよ。少し体が弱い子だから、群がるんじゃないわよ、特に男どもは。
私が世話する子に何かしたら分かってるな」
半ば脅しともとれる発言をしながら百合は、楽しそうに笑っている。それからは、恐る恐る近づいてきた女性徒と親交を深めつつ教師が来るのを待った。
ここまでは、普通の学生生活のスタートだったのだ。休み時間ごとに奴らが来るまでは。
一番始めに現れたのは、あの蘇芳とかいう男子生徒とその取り巻きだった。
たまたま、百合が教師に呼ばれ席をはずした時、まるではかったかのように奴らは来た。
「さきほどは、どうも。まだ話が終わっていないので失礼かとも思いますが一緒に来て頂けますか? 会っていただきたい方がいらっしゃいますので」
「私に話はないです。それに人に用があるのなら自ら来るべきでしょう? 私は、体が丈夫ではありませんから必要外の移動はしません」
「高塚さん、行ったほうがいいよ。多分、会長からの呼び出しだよ」
「うん、多分守護契約の話だと思うし」
側にいた女子生徒から見知らぬ言葉が出てきた。”守護契約”とは、ずいぶんときな臭い。
「守護契約とは、一体何の話?」
そう言って微笑みながら首を傾げる小夜を見て頬を赤く染めた女子生徒が説明してくれた。
それによると、鬼克の過激的な思想を持つ一派は白である音楽科の生徒に危害を与えようとするらしい。その為、夜叉族で構成される生徒会が一人一人に護衛を付け
守っているとの事。もちろん、その見返りとして護衛に対して優先的に力を分け与えるのが守護契約。必然的に卒業後も護衛関係は続く。
「つまり牧場主と家畜の関係ということかしら?」
小夜の発言に女性徒達は、息をのむ。蘇芳は、そんな彼女に大分慣れたのか若干顔を引きつらせながらも言葉を返す。
「貴女の安全の為にもぜひいらして頂きたい」
「けっこうよ。もし、何かされたとしたら学校に来なければいいだけの話だもの」
「学生の本分をお忘れか」
「元々、私は学校に通う気は無かったからちょうどいいわ。話がそれだけならもう帰ってもらえるかしら? 先生も授業を始めたいでしょうし」
「また、来ます」
蘇芳との攻防は、結局休み時間ごとに起きることになる。自分の世話をすると行っていた百合も何故だか色々呼び出しが重なり彼らが来る時には、側にいなかった。。
そしてついに嫌気がさした小夜は、昼休みになったと同時に教室から姿をくらますことにした。しかし、敵も上手で校舎のいたるところに人員を配していたのである。
その結果、昼休み中ずっと校内を走りまわることになったのだ。
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