正体



 「返してよ!!」

 小夜は立ち上がり男の手からペンダントを奪い返そうと必死に手を伸ばす。
 しかし、男はかなりの長身で小夜の手は届かない。それでもどうにかしようと男のネクタイを引っ張る。

 「人の持ち物を勝手に取るんじゃないわよ! 泥棒!」
 「おや? 助けてもらっておいてそれはないんじゃないかな? 高塚 小夜(たかつかさよ)さん?
  いや、館林 美麗(たてばやし みれい)さんと呼んだほうがいいのかな?」

 男から出た自分の偽名と本名に小夜は、男から手を離し後ろに下がり距離を取る。

 (何なのよ、この男は!)

 それに急に動いたせいか、再び眩暈が襲い足元がおぼつかなくなり、ついにはそのまま前に倒れてしまう。

 「危ない」
 「え?」

 気が付くと小夜は男に抱きとめられていた。

 「急に動くからいけないんだよ」
 「だ………だ………れ……の……せ……」
 「もちろん、私のせいだよ。よっと」

 男はそのまま小夜を抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこの状態である。
 小夜は、恥ずかしさに思わず男を睨みつけるが男はそんなことをまったく気にする様子はない。

 「そこに運ぶだけだから大人しくしていなさい」

 男は小夜をソファーまで運ぶと優しくその上に降ろす。

 「とりあえずこれを飲みなさい」

 そう言われて手渡されたのは、ペットボトルのミネラルウォーター。ご丁寧にキャップを外した状態だ。
 言う通りにするのは癪にさわるが仕方ない。何口か飲むと大分気分が良くなってきた。

 「あなた、一体誰?」
 「私はここで調査会社を経営している。名前は、鬼頭 雅也(きとう まさや)。よろしく」
 「何で私の名前……………」
 「名前だけじゃない。本当は16歳の未成年で家出中なのも知っている。
 今回は君のお父さん、いや本当はお祖父さんかな? その人の依頼で君を探していた」
 「パパが?」
 「そう、体の弱い君に家出をされて慌てたんだろうね。表や裏に限らず全ての伝手を使って君を探していた。
 そのうちの一社が私のこの会社だ」

 逃げたつもりが自分から檻の一つに逃げ込むなんて。まったくついてない。

 「それで? 私を引き渡すんでしょ?」
 「その予定だったんだけど………」

 雅也が何か言おうとした時だった。扉を乱暴に開け放つ音と共に新たな人物が現れる。
 その姿を見た瞬間、小夜は驚きのあまり言葉を失ってしまう。何故なら……。

 「お嬢! 何やってるんですか!!」
 「保(たもつ)? 何でこんな処に?」

 大きな怒声とこれでもかと言わんばかりに目を吊り上げ怒りを表した男。それは数年前まで自分の遊び相手を務めていた人物だった。



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