見知らぬ部屋



 「彼がお前の結婚相手だよ」

 そう言って、父は庭を指さした。そこに居たのは、彼。一族の数多の女が恋い焦がれている人。

 「…………何故、私何かが…………」

 唇を噛みしめ俯く自分の娘を見て、父親はひそかに溜息をもらす。娘の疑問はもっともな事。
 この話が来た時、思わず「何故?」と同じように問い返したのだから。力も対して無い、体が弱いだけの娘。
 このまま、ずっと手元に置いておくつもりだった、しかし。

 「お前をぜひ嫁にと、望んだのは彼だよ」
 「え?」

 父の答えに俯かせていた顔を上げ、彼を見つめる。すると、その視線に気がついたかのようにこちらを見返してきた。
 そして、あの優しい笑顔を自分に向けてきた。
 何故、気がつかなかったのか。あの優しい笑みの裏側にある残酷な真実に。

 「うぅ…………。あれ、ここは?」

 目を開けるとそこには、見知らぬ天井が映っていた。自分の部屋ともホテルの部屋とも違う天井が。
 小夜は、ゆっくりと起き上がり辺りを見渡す。そこは、6畳程のフローリングの部屋でベッド以外は何もない部屋。
 かろうじて、小さなテーブルがあるくらいだ。
 ベッドから降りるとそのテーブルへと近づく。すると、その上には、白のニットとジーンズが、メモと一緒に置かれていた。

 『着替えを置いておく。サイズは合うはずだから、着替えたら隣の部屋に来るように。緋乃』

 着替え?
 メモを見て、自分の姿を確認する。すると、少し大きめの黒のスウェットを着ていた。
 誰が着替えさせてくれたんだろう。…………緋乃さんであることを望みたい。小夜は、切にそう願った。
 着替えて部屋を出ると、4畳程のリビングと洗面所と思われる扉と玄関が目に入る。
 とりあえず、洗面所へと向かい顔を洗う。そして、お風呂場とは別の扉を開けてみるとそこは、トイレだった。

 「へー、別々何だ。いい部屋だなぁ。それにしても、ここ誰も住んでないのかなぁ?」

 扉を閉めるとそのまま玄関へと向かう。隣の部屋とメモには書いてあったけれど。
 外に出ると自分がいたのが角部屋だったのが分かった。左の方に廊下が続いている。

 「分かりやすくて良かった」

 指定された隣の扉の表札を見ると緋乃とだけ書かれている。
 それを見て指定された部屋である事を確認した小夜は、インターホンを押す。

 「はい?」
 「あの、小夜ですけど…………」
 「あぁ、鍵は開いてるから、入っておいで」
 「お邪魔します」


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