父の思い
「みぃちゃん!!」
実家の玄関口に車が着くなり、中から初老の男性が飛び出してくる。そして、目にはうっすら涙を浮かべながら、小夜を力一杯抱きしめてきた。
そのあまりの勢いと力に圧迫され、かなり息苦しい。
「パパ。………………苦しい」
「すっ、すまん。すまん。大丈夫か?」
「平気」
小夜にパパと呼ばれた男性は、慌てて腕を解くと改めて娘の無事を確認する。とりあえず、顔色は良くどこにも異常はなさそうだ。
そして、小夜を追うように助手席から降りてきた保を見て、にやりと笑った。
「おぅ! 元気そうだな? 保」
「はい! お久しぶりです。あの…………すみませんでした!!」
「何を謝る必要があるんだ。おめぇだってもういい大人なんだ、自分の人生自分で決めればいいさ。まぁ、兄貴にはちゃんと謝っとけ」
「…………はい」
「さぁ、二人とも中に入れ!」
小夜の父親の反応に、保は心底ホッとした。まぁ、一番の関門はまだ残ってはいるが。それでも、まだましだろう。
小夜も父親の反応に、少しばかり肩すかしをくらった気分だが、延々とお説教をされるよりはまだましだと思いなおすことにした。
「龍のおかげで無事にあの件は、解決だ。みぃちゃんには、本当に悪かった」
「別にいいよ。とにかくお兄ちゃんの無実が証明されて良かった。そう言えば、お兄ちゃんは?」
「秀一達は、後処理で色々と忙しいらしい。夜には帰ってくるから、今日は内輪の祝いをやろう」
「結局、パパは会社を辞めるの?」
「せっかくの機会だ。秀一に跡をゆずって、残りの老後をゆっくり過ごすことにした。麗香と旅行したりするのもいいと思ってな」
父が楽しそうに語るのを見て、確かにそれもいいだろうと思った。
「それで、みぃちゃん。体の具合は本当に平気か?」
「うん。家出してた頃は、ほとんど発作も起きなかったし。鬼頭さん達の話は、本当みたい」
「そうか。でも、一人暮らしをするならあんまり無理しちゃ駄目だぞ?」
「分かってます。それにしても意外。パパがあっさり許してくれるなんて」
娘の言いたいことが分かったのだろう、父は苦笑する。
「そりゃあ出来ることならずっと側に置いておきたいのが本音だ。でもなぁ、それじゃみぃちゃんの人生がつまらないものになってしまう。
私は、子供には広い世界を見て、その中で自分の人生を歩んで欲しいと思っている。だから、いい機会なんだ。これは」
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