それぞれの再会




 その後、帰宅した兄二人と両親の五人で夕食を囲んだ。その場は、以前のようななごやかな雰囲気に包まれていて、本当に事件が無事に解決したのだという実感が湧いた。
 とりあえず、心配をかけた事に変わりがないので兄二人に謝罪をすると彼らは笑って許してくれた。それどころか、妹の暴挙とも取れる行動を褒めてくれたのだ。

 「いやぁ、よくやった! 美麗!」

 そう言って手を叩いて心底愉快そうに笑ったのは、次男の秀吾。その隣で苦笑しながら自分の頭を無言で撫でたのは、長兄の秀一だった。
 秀吾は、昔からこうだった。自分が無謀な行動を起こすと手放しに喜んでくれるのだ。

 「秀吾兄は、そう言うと思った」
 「今までで一番の冒険だな。でも、それが出来るくらい元気ならそれでいい」
 「心配かけてごめんなさい。秀兄」

 謝る妹を本当に愛おしそうに目を細めて秀一は、笑った。そして、改めて帰ってきた妹を観察する。
 若干、細くなった気がするが十分許容範囲内であるし、顔色はすこぶる良い。これなら、実家を離れても問題ないだろう。
 そんな事を兄が考えているとはつゆ知らず、小夜は嬉しそうに秀一にピタリと寄り添っている。
 そんな美麗を見て秀吾は、兄離れならぬ、父離れは相当先のようだと肩をすくめた。
 小夜本人は、父や兄が過保護で仕方ないと思っているようだが、秀吾からすれば妹は相当のファザコン、ブラコンだ。
 だからこそ、自分は適度に距離を取りながら、時々焚きつけるのだ。自立心を養わせる為の冒険に出るように。

 「それで、一人暮らしをしてみてどうだった?」
 「うーん、最初はどうしようって不安だったけど、いざ働いたりしていたらあっという間だったかな。それに色んな人と会って楽しかったかな」
 「そうか、良い人達に会えて良かったな」
 「皆、気の良い人ばっかりだった。都会の人って冷たそうなイメージだったけど、温かい人もいるんだなって」

 それから三人は、仲良くこれまでの小夜の生活について話に花を咲かせた。そして、新たな生活に、思いをはせる妹に兄達は、心配しつつも温かく見守ることにした。

 一方、和やかな兄妹もいれば、その逆の兄弟もいる。
 秀一を送り届け、小夜の無事を確認した龍は、その後ろに立つ弟の首根っこを掴むとそのまま離れにある自分達の住居へと向かった。
 そして、リビングの床に弟を放り投げると、ドンと床を強く足で踏み鳴らす。その音に兄の怒りの深さを感じ取った保は、すぐさまその場に正座し、頭を下げた。

 「すいませんでした」
 「あぁ? 俺が何に怒っているか本当に分かってんのか?」
 「恩ある親父さんに何も言わずにここを飛び出した事です」
 「…………それだけか?」
 「へ?」
 「へ? じゃねぇ、この馬鹿!」
 「痛い、痛いって兄貴」

 その答えが気にいらなかったのか、龍はガシッと弟の頭を掴むとそのまま思い切り力を込めて圧迫する。
 しかし、保が悲鳴を上げ続けて許しを請うので手を離す。そして、スーツから煙草を取り出し火をつけて吸い始めた。

 「俺が怒ってんのは、お嬢に一族の奴らとの接点を持たせたことだ」
 「いや、それは親父さんが鬼頭さんにまで捜索依頼を出したからじゃ……」
 「お前がお嬢の側を離れなければこんな事にはなってねぇ!」
 「鬼頭さんは、親父さんとも懇意にしている人だし害はないと思うぜ」
 「鬼頭はな。問題は、鬼頭の会社に入るって事は、あいつらとも接点を持つってことなんだよ」
 「でも、お嬢を別にあっちと関係はないし問題ないだろ?」
 「お前の鈍さには本当に呆れるな。まぁ、今から心配しても仕方ないか。とにかくお嬢にあいつらを近寄らせるなよ」
 「分かった」
 
 兄が何をそんなに危惧しているのか保にはこの時は理解できなかった。


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